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大阪地方裁判所 昭和41年(ワ)3090号 判決 1971年10月18日

原告 北牧ツル

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 武田隼一

右訴訟復代理人弁護士 池添勇

被告 嶋田益太郎

<ほか一名>

右両名訴訟代理人弁護士 間沢完治

同 三木善続

同 渡部孝雄

同 表久守

右訴訟復代理人弁護士 河田功

主文

別紙物件目録一記載の土地が原告北牧ツルの、同目録二記載の土地が原告北牧恒夫の、各所有であること確を認する。

被告嶋田益太郎は、原告北牧ツルに対し、別紙物件目録一記載の土地につきなされた大阪法務局枚方出張所昭和三〇年三月四日受付第七七三号、昭和二九年六月九日売買を原因とする所有権移転登記の、原告北牧恒夫に対し、別紙物件目録二記載の土地につきなされた同法務局同出張所昭和三〇年三月四日受付第七七四号、同年同月二八日売買を原因とする所有権移転登記の、各抹消登記手続をせよ。

被告符川一夫は、原告北牧ツルに対し、別紙目録一記載の土地につきなされた、原告北牧恒夫に対し、同目録二記載の土地につきなされた、いずれも大阪法務局枚方出張所昭和三五年五月六日受付第五三八九号、昭和三四年三月一六日売買を原因とする所有権移転登記の、各抹消登記手続をせよ。

被告符川一夫は、原告北牧ツルに対し、別紙物件目録一記載の土地を、原告北牧恒夫に対し、同目録二記載の土地を、それぞれ引渡せ。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文同旨の判決を求め、その請求の原因として次のとおり述べた。

一、別紙物件目録一記載の土地(以下本件一の土地と称す。)は、同目録三記載の土地(以下本件三の土地と称す。)とともに原告ツルの所有であり、同目録二記載の土地(以下本件二の土地と称す。)は原告恒夫の所有であった。

二、しかるに本件一の土地については、大阪法務局枚方出張所昭和三〇年三月四日受付第七七三号、昭和二九年六月九日売買を原因として被告嶋田に対し所有権移転登記(以下本件一の登記と称す。)がなされ、本件二の土地については同法務局同出張所昭和三〇年三月四日受付第七七四号、同年同月二八日売買を原因として、同じく被告嶋田に対し所有権移転登記(以下本件二の登記と称す。)がなされ、更に本件一、二の各土地につき同法務局同出張所昭和三五年五月六日受付第五三八九号、昭和三四年三月一六日売買を原因として、いずれも被告符川に対し所有権移転登記(以下本件三の登記と称す。)がなされ、現在同被告が右各土地を占有している。

三、しかし原告らは被告嶋田に本件一、二の各土地を売渡したことはないから、同被告並びに同被告より右各土地を譲り受けたとする被告符川はその所有権を取得することはできず、依然本件一の土地の所有権は原告ツルに、同二の土地の所有権は原告恒夫にある。しかるに被告らはこれを争うので、本件一、二の各土地が右のように原告らの所有に属することの確認を求め、併せて被告嶋田に対しては本件一、二の各登記の抹消登記手続を求め、被告符川に対しては本件三の各登記の抹消登記手続と、本件一、二の土地の引渡しを求めるため、本訴に及んだ。

被告ら訴訟代理人は、「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決を求め、答弁並びに抗弁として次のとおり述べた。

一、請求原因第一項、第二項は認める。第三項は争う。

二、被告らは本件一、二の各土地の所有権を売買により有効に取得したものである。すなわち被告嶋田は原告ツルに対し、昭和二八年九月一〇日頃金三万円、同年一二月末頃金二万円を、いずれも郵便局積立預金程度の利息で、弁済期は昭和二九年三月一〇日頃の約定で貸与した。その際右債務の支払を担保するため被告嶋田と、原告ツルはその所有の本件一の土地および本件三の土地につき、原告恒夫はその所有の本件二の土地につき、いずれも代物弁済の予約をした。原告ツルは期限に弁済できなかったので、被告嶋田が右三筆の土地を代物弁済として所有権を取得しようとしたところ、原告ツルが五万円の借金で三筆の土地をとられるのは酷であるというので、話合の結果昭和二九年六月九日、被告嶋田が右三筆の土地を、右各所有者より合計八万円で買取ることになり、内金五万円は貸付金五万円と相殺し、残金三万円を支払ってその所有権を取得し、所有権移転登記を了したのである。その後被告嶋田は右三筆の土地を昭和三四年三月一六日被告符川に売渡し、所有権移転登記をした。したがって本件一、二の各土地は現在被告符川の所有であり、原告らの所有ではない。また本件一ないし三の各登記は実体関係と合致しているから、抹消登記手続を求められるいわれはない。

三、仮りに右売買の主張が理由がないとしても、被告嶋田は昭和三〇年三月四日より本件一、二の各土地の占有を始め、被告符川はその後被告嶋田の右占有を承継し現在に至っている。被告らの右占有は所有の意思を以て平穏公然になされ、占有の始め善意にして過失はなかった。したがって被告符川は被告嶋田の占有期間をも含め、民法第一六二条二項により、昭和三〇年三月四日より一〇年の経過によって本件一、二の各土地を時効により取得している。

四、以上の次第で原告らの本訴請求は理由がないから棄却すべきである。

原告ら訴訟代理人は、被告らの右抗弁に対する答弁並びに再抗弁として次のとおり述べた。

一、原告ツルが被告嶋田より合計五万円を借受けたことはあるが、借受日は内金三万円は昭和二八年九月一一日、内金二万円は同年同月二〇日であり、利息は月二分、弁済期は同年一二月二〇日の約定であった。右債務の支払を担保するため原告ツルが本件二、三の土地につき被告嶋田と代物弁済の予約をしたことはあるが、本件一の土地についてはかかる事実はない。原告ツルは約定期限に弁済できなかったので、被告嶋田に懇請して弁済期を同年一二月二五日に延期して貰った。原告ツルは訴外北牧シズエから金五万円を調達し、訴外北牧勇に同日夜被告嶋田に届けるよう依頼してこれを託した。同訴外人は本件貸借の仲介人であった訴外西川未光と同道するつもりで右五万円を同訴外人に寄託しておいたところ、訴外西川は訴外北牧を出し抜いて単独で被告嶋田方に赴き、勝手に本件一、二の土地を買受けたいという被告嶋田の要望を容れて右金五万円を持帰って来た。そして原告ツルに対し、本件一、二の土地を七万五、〇〇〇円で被告嶋田に売ることを強要し、「既に二〇日の期限を過ぎたのであるから、土地は被告嶋田の所有になっている。今更ジタバタしても仕方がない。それより二万五、〇〇〇円の追加金をもらった方が身のためだ。」と老令の女性である原告ツルを脅迫した。しかし同原告はこれを拒絶したものである。しかるに原告ら不知の間に本件一、二の登記がなされたものであり、原告らは本件一、二の土地を被告嶋田に売渡したことはないのである。

二、仮りに原告らと被告嶋田との間に被告ら主張の売買契約が成立したとしても、右契約は次の理由により無効である。

(一)  本件売買は、その実質は原告ツルの被告嶋田に対する五万円の借受金の代物弁済である。本件二の土地の所有権者は原告恒夫であり、同原告は昭和一三年二月一〇日生れであって、前記代物弁済予約および右売買契約のなされたる時は未成年であった。これら契約は本件二の土地については原告ツルが、原告恒夫の法定代理人親権者として締結したものである。親権者が自己の債務を弁済するため、自己の親権に服する者の財産を代物弁済に供する行為は、利益相反行為であり、無権代理として無効である。よって本件売買は本件二の土地については無効である。

(二)、≪省略≫

三、被告符川は被告嶋田の占有を併せて本件一、二の土地を、一〇年間所有の意思で平穏、公然、善意、無過失に占有したから、時効取得したと主張するが争う。特に、被告嶋田の占有は悪意で始まっているから、一〇年で時効は完成しない。このことは被告嶋田が原告ツルからの現実の弁済の提供を拒絶し、本件一、二の土地の所有権移転登記を原告の不知の間になしていることにより明らかである。また原告ツルは本件一、二の土地について、所有権の移転を受けたとする被告嶋田の主張に納得できず、その後も本件一、二の土地に耕作のために赴いたことがあり、枚方警察署へ口頭で同被告を告訴したり、農地委員会へ訴えたり、更に地元有志に斡旋を依頼したこともある。したがって、被告嶋田はその事情聴取、取調べを受けるなどしているから、善意、無過失に本件一、二の土地を占有したとは考えられない。

≪以下事実省略≫

理由

一、本件一、三の各土地が原告ツルの所有であり、本件二の土地が原告恒夫の所有であったこと、本件一の土地については本件一、三の各登記が、本件二の土地については本件二、三の各登記がなされていること、本件一、二の各土地を被告符川が占有していることは当事者間に争がない。

二、原告らは本件一、二の各土地を被告に売渡したことはない、と主張するのに対し、被告は昭和二九年六月九日に本件一ないし三の各土地を原告ツル(本件二の土地については原告恒夫の法定代理人としての原告ツル)より合計八万円で買受けたものである、と主張するので、まずこの争点につき判断する。

≪証拠省略≫によると次の事実が認められる。

原告ツルは亡夫の借財の返済を迫まられたので、その返済資金に充てるため、被告嶋田より昭和二八年九月一一日金三万円を、同年同月二〇日金二万円を、いずれも利息は月二分、弁済期は昭和二八年一二月二〇日の約定で借入れた(この点借受日、利息、弁済期を除き当事者間に争がない。)。これらの消費貸借はいずれも原告ツルが、訴外日垣種吉に仲介を依頼し、同訴外人は更に訴外西川未光に仲介を依頼した結果成立したものである。原告ツルは両債務の共通担保として被告嶋田との間に本件二、三の土地について代物弁済の予約を締結し、本件二の土地は原告恒夫の所有であったから、昭和一三年二月一〇日生れで当時未成年であった同原告を代理して、原告ツルが右予約をなしたものであった(右予約の対象物件に本件一の土地を含んでいない点を除き、右事実は当事者間に争がない。)。被告嶋田は当時農地の取得を希望し、訴外西川未光に斡旋を依頼していたところ、同訴外人から原告ツルに金員を貸与し、代物弁済予約の形で農地を担保にとっておけば、将来これを取得できるからと、金員貸付を勧められたので、当初から農地取得を期待して前記貸付をしたものである。原告ツルは弁済期の昭和二八年一二月二〇日金五万円を弁済し得る見込みがなかったので、同年同月一七日に被告嶋田方に、利息金四、〇〇〇円を持参して弁済期の延期を懇請したところ、同被告より同年同月二五日まで待つ旨の承諾を得た。そこで原告ツルはその頃訴外北牧シズエに対し、事情を話して金五万円の貸与を頼んだところ、同訴外人はこれを承諾し、弟である訴外北牧勇および訴外西川未光に直接被告嶋田方に右金五万円を持参させ、弁済させることを引受けてくれた。右金五万円は訴外西川未光に交付され、同訴外人と訴外北牧勇との間では同年一二月二五日の弁済期日に被告嶋田方に同道する約束であった。しかるに訴外西川未光は同日単独で被告嶋田方を訪れ、金五万円の弁済をなさず、反ってこの際担保物件たる土地を代物弁済として取得してしまうことを勧めたので、同被告もその決意をするに至った。同日夜原告ツルは訴外西川未光に訴外日垣種吉方に呼出され、同訴外人宅で、同訴外人、訴外西川未光ら同席のところで、被告嶋田より弁済金は受領しないし、担保に供していた土地を前記貸付金の代物弁済として取得する旨言渡された。原告ツルはすでに訴外西川未光らによって右借金はすでに弁済されているものと信じていたので大いに驚ろき、右土地の返還をしきりに嘆願したが、被告嶋田はこれを容れず、結局訴外日垣種吉の取なしで、本件二、三の土地の時価が金五万円を超過することから、被告嶋田が更に金二万五、〇〇〇円を支払い、合計金七万五、〇〇〇円で買取る契約が同被告と原告ツルとの間に成立し、内金五万円は前記貸金五万円と相殺決済された。原告ツルとしては右売買は余り本意ではなかったが、被告嶋田の要求、訴外西川未光の説得が強かったので止むなく応じたものであり、その頃差額の金二万五、〇〇〇円を訴外西川未光を介し受領した。ところが被告嶋田は、原告ツルが当初金三万円を借受け、本件二、三の土地を代物弁済予約の形で担保に供したとき、同被告に差入れた権利証の中に、本件一の土地の権利証もあった(恐らく本件一、三の土地は同一権利証に表示されていたもと思われる。)のと、原告ツルがほとんど文盲に近いことに乗じ、本件一の土地は売買の対象になっていなかったのに、昭和二九年始め頃、原告ツル、同恒夫から本件一ないし三の土地の所有権を被告嶋田に移転することについての、農地法三条の許可申請書並びに右申請の委任状に原告ツルに捺印させ、これを所轄の楠葉地区農業委員会を経由して大阪府知事に提出してその許可を得、次いで同年六月頃、本件一、三の土地が対象物件として表示されている乙第一号証の不動産売渡証書の売主名下に、本件一の土地が表示されていることに気付かない原告ツルをして押捺させ、更に同原告をして本件二の物件が対象物件として表示されている乙第二号証の不動産売渡証言の売主名下に原告恒夫の印、およびその親権者としての同原告の印を押捺させ、右各土地の所有権移転登記申請の委任状にも同様それぞれ押印させて、これらの書類と前記権利証により、昭和三〇年三月四日、本件一ないし三の土地につき自己への所有権移転登記を了した。以上の事実が認められる。

≪証拠判断省略≫

二、右認定事実によれば被告嶋田と原告ツルの前記売買契約には本件一の土地は含まれていなかったのであるから、右契約により同被告が右土地の所有権を取得し得なかったことは明らかである。

三、前記売買契約は原告ツルの被告嶋田に対する金五万円の借金の返済のためになされたものであり、現に売買代金中五万円は右債務と相殺決済されているのであるから、金二万五、〇〇〇円が追加支払われ、法的には売買の形式をとっているが、実質は右金五万円の代物弁済として本件二、三の土地が供され、清算金として金二万五、〇〇〇円が返還されたものというべきであり、この事実は被告嶋田も当事者として承知しているわけである。本件二の土地についていえば売買契約は原告ツルが原告恒夫の親権者として同原告を代理して締結したものであるから、これを実質に照らして見れば、原告ツルは自己の債務の代物弁済として、原告恒夫を代理して同原告所有の土地を供したということができる。親権者が特別代理人選任の手続をとらず、自己が代理して親権に服する子の財産を自己の債務の代物弁済に供することは、利害相反行為であり、民法第八二六条に違反し、無権代理として無効というべきである。もっとも利益相反行為であるかどうかは、行為の外形に則って判断すべきであるが、それはその行為の、実質的な効果や、親権者の意図により判断すると、これらを知らない取引の相手方に、不測の損害を及ぼすことがあるからであり、本件売買契約の如く相手方である嶋田が行為の実質的な意味が、代物弁済であることを十分承知しているときは、代物弁済として同法条に該当の有無を吟味すべきである。そうだとすると前記売買契約は、ことの実質より見て、本件二の土地については無効であり、右契約により被告嶋田は右土地の所有権を取得しなかったということができる。

四、本件一、二の土地につき本件三の登記がなされていることは当事者間に争なく、被告符川本人尋問の結果によると、同被告は昭和三四年三月一六日被告嶋田から本件一ないし三の土地を買受けたことが認められる。しかし被告嶋田は本件一、二の土地の所有権者ではなかったのであるから、右売買により被告符川が右土地の所有権を取得し得なかったことは明らかである。

五、被告符川は、被告嶋田は昭和三〇年三月四日より本件一、二の各土地の占有を始め、被告符川はその後被告嶋田の右占有を承継し現在に至っているところ、被告らの各占有は所有の意思を以て平穏公然になされ、占有の始め善意にして過失はなかったから、被告符川は被告嶋田の占有期間を含め、昭和三〇年三月四日を起算日として一〇年の経過より、本件一、二の各土地を民法第一六二条二項により時効取得した、と主張する。

しかしながら、被告嶋田が本件一、二の土地の占有を昭和三〇年三月四日に始めたことを認め得る証拠はない。(反って≪証拠省略≫によると右占有を始めたのは昭和二九年六月頃であることが認められる。)。のみならず前記認定事実によれば被告嶋田は原告ツルとの前記売買契約の目的物件には本件一の土地は含まれていなかったこと、したがって右売買により右土地の所有権を取得しなかったことを承知していたことは明らかであるから、本件一の土地については被告嶋田は占有の始め悪意であった、ということができる。また、本件二の土地についても、被告嶋田は、原告ツルが自己の親権に服する子である原告恒夫所有の右土地を、実質上自己の債務の代物弁済として供するものであることを知りながら、前記売買契約を締結したことを承知していたのであるから、占有の始め悪意か、少くとも過失があったというべきである。けだし同被告が占有の始め、民法第八二六条の規定を知っていたなら当然悪意であるし、仮りに知らなかったとしても、親権者が自己の親権に服する子を代理して、自己の債務の代物弁済として子の財産を供するが如き行為は、通常人であれば、何らかの法的制約があるのではないか、との疑問を抱くのが当然であるから、その調査をなさず、よって右法条の存在を知り得なかったことは過失があるといい得るからである。そうだとすると被告符川の時効取得の主張は理由がない、ということができる。

六、以上の次第で、本件一の土地の所有権は依然原告ツルにあり、本件二の土地の所有権は原告恒夫にあることは明らかであり、したがって被告嶋田は原告ツルに対し本件一の土地になされた本件一の登記の、原告恒夫に対し本件二の土地になされた本件二の登記の各抹消登記手続をなす義務があり、被告符川は原告ツルに対し本件一の土地につきなされた本件三の登記の、原告恒夫に対し本件二の土地につきなされた本件三の登記の、各抹消登記手続をなす義務があるとともに、本件一、二の土地を同被告が占有していることは当事者間に争いがないから、本件一の土地は原告ツルに、本件二の土地は原告恒夫に引渡す義務がある、というべきである。よって原告らの本訴請求はすべて理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 野田宋一)

<以下省略>

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